【ネタバレあり感想】ラジオドラマ作品集『NITAUMARI』具沢山で煮詰めたオムニバス

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【ネタバレあり感想】ラジオドラマ作品集『NITAUMARI』具沢山で煮詰めたオムニバス

ラジオドラマ制作ユニット『にくじゃが』による、2025年の夏コミ出展作『NITSUMARI』を聴取しました。

かねてより『にくじゃが』は『箱舟壱座』と縁がありまして、第4回ラジドリコロシアムでは同じ出場団体として競い合い、後に『バースデイ・リバース』というコラボ作品を世に放ちました。時期としてはだいぶ今更な感想記事になるのですが、聴き終えて「こりゃ書かねばなるまい」と思い、筆を執りました。

オムニバス形式につき、各作品ごとに感想を書きます。
タイトルにある通りネタバレありです。未聴取の方は以下よりご購入ください。

https://nikujagavoicenovel.stores.jp/items/689da77c1d03e939d63ff76a

EP01. ドカ食い潜入捜査

私の出身地である名古屋にはマウンテンという老舗の喫茶店があります。甘口抹茶小倉スパをはじめとする普通ではないフードを食べられるお店で、B級グルメ界隈では高い知名度があるとか。

私も学生時代に行ったことがありますが、この手の食べ物はあくまでも仲間とはしゃぎながらつつくぐらいが楽しいのであって、潜入捜査のために大量の品を食べなきゃならんと考えるとゾッとします。そんなわけで、1トラック目から胃もたれするような題材の作品を持ってくるあたり非常に挑戦的で、『NITASUMARI』から『にくじゃが』に入ったリスナーには強烈なインパクトを与えること請け合い。最初から躊躇いなく「いかつい」具材を投入する、これが『にくじゃが』流の”つかみ”ということなのでしょう。買ってもらったからには、最後までついてきてもらおうという気骨を感じます。

オチにあたる違法賭博の正体がどうでもよくなるぐらい、料理の内容と捜査官二人のやりとりが珍妙で楽しめました。言うなれば、味が濃いものに味を濃いものをぶつけられ、デザートにも味が濃いものが出てくるような状況であり、そういう意味でも胃もたれする作品。狙ってやっているのであれば殊勝なことです。

秋山、お前は何しに来たんだ本当に。

EP02. MY PROFILE

ちょっと珍しいことが書いてある名刺を受け取ると、会話のフックになることがよくあります。多分そういうところから着想して、「プロフィールカードなら尚更だろう」と思い至って作られた話なのでしょう。ビジネスマンあるあるですね。「うちの業界ではプロフィールカードを交換するのがスタンダード」とか言っていましたが、終始なんの業界なんだかサッパリ分からないままだったのが面白い。

A,B,C,D…と続く言葉遊び、聴いている全員が気づくと思うんですが、O,Pあたりにもなってくると「次はどう来るんだ?」とか期待しちゃう自分がいて、蓋を開けてみたら「QRコード」が出てきたところ、メチャクチャくだらなくて最高でした。

EP03. ブレインズクリーニング

個人的には『NITSUMARI』の中で最も『にくじゃが』らしさが出ている一本でした。独特な味付けだが、食材は「日常で感じるちょっと痒い部分」といったありふれたもの。記憶って全ての人間が平等に向き合うものじゃないですか。黒歴史だって誰にでも一つや二つあります。蓋をしがちなところを、まっすぐ受け止めてポジティブなエネルギーに変換するという素敵なお話。

物語の結構早い段階から「これ、どこで話してるんだ?SF的な技術を使って精神世界にダイブしてるのか?そのへん敢えて曖昧のまま終わらせる奴だろうな~」とか色々小難しいことを考えながら聴いていたのですが、最後の最後で主人公が「っていうかここ、どこの話なんですか」とか率直な気持ちを吐露したところで噴き出してしまいました。佐藤ユウ、こういう絶妙なタイミングで梯子外すの好きですよね?

言うなれば、ブレイズクリーナーたちはセラピストということになるでしょうか。黒歴史と正面から向き合わせ、蟠りという埃を掃除するというのは荒療治な気もしますが、それはあくまでも顧客が望んだこと。決まった手法を押し付けることなく、個人に合わせた最適解の提示を試みる、素晴らしい腕をお持ちなのでしょう。知らんけど。

EP04. 学級崩会

小学校の頃、誰かというか学級全体が何かをやらした結果、反省会みたいな時間になったことってありませんか?あれ、ただただ気まずいだけで不毛だなぁと思っていたんです。そんな苦い記憶を思い出させるような冒頭だったのでむずがゆかったのですが(向き合えってことなのかな?)、被害者の顔して泣きじゃくりながらエグいワードを連発されたことで全てが吹っ飛びました。畳みかけるの笑うからやめてくれ。何重にも入れ子構造になっているので荒唐無稽に思えるけど、加害者が被害者面をするってこと自体は普遍的な現象ですよね。SNSをやっていれば簡単に見つけることができます。

最後、SNSの反応を声で表現しているシーンが入るのですが、蛇足かも?と思いました。
オーディオドラマを最後まで聴けるような人間は、あの投稿をインターネットの海に放流したら、どんな事態になるかは容易に察せるはずです。SNSに投稿後、通知音がけたたましく鳴り続ける。その内容は、明言するまでもない……ぐらいの終わり方のほうが、始まりから中盤まではジメジメ、最後はカラっと仕上がる。それもいいと思います。脚本のアイディアのスタート的には、やりたかった演出なのだろうとも思うのですが。

EP05. 牧本さんの肉じゃが

『にくじゃが』が『肉じゃが』を本格的に取り扱った話は、私の与り知る範囲ではこれが初めて(もしあったらすみません)。ユニット最初の頒布物ということでトリに相応しいと考えたのでしょう。5作品の中では最も長尺であり、気合を感じる一本です。

この作品はとにかく音作りが秀逸でした。玄関の扉を開けた時に聞こえてくる踏切の音とか、少々生々しさすら感じる主人公の咀嚼音とか。これこれ、これぞオーディオドラマよ……という醍醐味を感じさせてくれます。オーディオオンリーを作り続けている人間が培ってきた独特な感覚によるものですよね。素晴らしい編集とお芝居でした。

隣人からのお裾分けは、実は製薬会社の生き残り戦略だった。そしてその開発されていたものこそが、最後のお裾分けに繋がる。極めて良くできた作劇です。しかし、でき過ぎているとも言えます。先述した通り、このお話の出発点は「肉じゃがをテーマにする」というところにあるのだと思います。肉じゃがと言えば、隣人の作り過ぎ。隣人の作り過ぎと言えば、お裾分け、ではお裾分けの真意とは……と考えていった結果、この物語に辿り着いたのだとすると、良くも悪くも「肉じゃが」を中心に世界が構築されていく。それはテーマが一貫しているということでもある一方で、人物や設定がテーマを引き立てる舞台装置と化しているとも言えるわけです。実際、製薬会社が敢行したプランには少々無理を感じないでもなかったり。スタッフの隣人の皆が皆、主人公みたいに奇妙なお裾分けを素直に受け取ってくれる想定なんだろうか?とか。それが「ちょっと不思議」ということなのだと言われれば、それまでなのですが……。

この作品は唯一、聴き終わった後に速攻で2週目に入りました。ブックレットにも記述がありましたが展開はめまぐるしく、20分ほどの中編ということもあって情報量が多め。全て分かった前提で聴くと、人物の言動やお裾分けアイテムの内容にニヤリとできます。

全体を通しての感想

好きすぎるあまりにくじゃが厄介オタクになりかけているところがあるので色々書いてしまったんですけど、全体としては大変満足しました。今更ですが『にくじゃが』チームの皆さん、制作お疲れ様でございました。

脚本/監督を担当している佐藤ユウ氏とは裏で色々と話しており、水面下で動いている企画があったりします。『にくじゃが』での活動も含め、今後の展開が楽しみです。