M3春2026で入手したオーディオドラマのうち、「これは!」と思ったものをピックアップして感想を書いていきます。
★紹介作品
『名もなき星たちの祈り』(Production Luna Nova)
『悪魔のレシピが残された』(めみゅっと)
『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』(かせいさんとこ)
『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』(ざわざわーるど)
『隠り世の鳥』(碧空プラネタリウム)
『口を出すなら耳を貸せ!』(イロガミのブーケ)
性質上、3割ぐらいはネタバレしますので、情報を入れたくない方はご注意ください。
『名もなき星たちの祈り』(Production Luna Nova)
第二次世界大戦終戦直後の日本を描いた作品なのですが、こういったテーマを取り扱うにあたり「戦争を経験していない人間に何が描けるのか?」と問われたら、はっきり言って返す言葉はないでしょう。しかし、その戦争経験者の方々から直接お話を伺うことは難しくなってきている昨今、我々が語り継ぐ番となっていることもまた事実。実際に経験していなかったとしても、記録として残されたものから想いを馳せることはできます。それなりの覚悟が要るでしょうが、作中通して終始丁寧にその時代に生きた人々を描き切ったのは見事でした。
Luna Novaの作品は聴取後に穏やかな気持ちになる綺麗な世界を描くことが多いのですが、この作品はその殻を一つ破ったと思います。時代背景に裏打ちされた緊張感のある展開や、国を愛しているからこその心無い言葉、そして戦地での過酷な経験。聴いていてストレスにもなりうる描写を勇気をもって挿し、綺麗に終わるかと思いきや、もう一山あって終着点に至る。テーマ性はもちろんですが、エンタメ性も忘れずに盛り込んでいるところに好感が持てます。何度も言ってますけど、私は現状のLuna Novaの作品群の中ではかなり好きな一本です。
『名もなき星たちの祈り』はBOOTHでご購入いただけます。
https://lunanova-pro.booth.pm/items/8259327
『悪魔のレシピが残された』(めみゅっと)
『地下施設』『宇宙人』『火球』『悪魔のレシピ』……。興味をそそられるキーワードを、なんてことない日常に散りばめながら、最後は日本の中心・岐阜を舞台に、国の水面下で走っている壮大な計画の全貌が明らかになってゆくという構成。第一話の、ボイスレコーダーで日記をつける習慣がある主人公の話が出た時は「なんだそれ」と思ったのですが、それが思わぬ形で役に立っていくというギミックには膝を打ちました。やってることはナチュラルにヤバいんですけどね。コンカフェ嬢を追いかけていったら山奥までたどり着くってお前……。自分が異常じゃないと確信している演出がリアルで気持ち悪かったです。めみゅっとさんの強みである臨場感のある音声編集で没入感は申し分ありません。
この作品には実際の地名が出てくるのですが、ドラマとかバラエティ番組でも、知っている/言ったことのある場所が出てくるとテンション上がりますよね。極めて個人的な話なんですけど、東武東上線が最寄りの地域に住んでいた時期があるので、和光市が舞台のエピソードを聴いている時はなんかすごく嬉しかったです。
あと、高校生たちにスポットが当てられるエピソードがあるのですが、高校生にしてはえらく丁寧な言葉選びと喋り方をするところが少し気になりました。脚本家の癖というか、敢えてなんですかね。
『悪魔のレシピが残された』はBOOTHでご購入いただけます。
https://booth.pm/ja/items/8204787
『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』(かせいさんとこ)
題名が作品の全てを表している。初手でとっ捕まっているお姉さんに少年(≒聴取者)が会いに行くところからスタートし、過去に行ってきた変な法律の体験を述懐します。いろいろな、っていうかおびただしい数の法律を犯しているので、話せば話すほどお姉さんの設定が盛られていくのが、なんとも不条理でありおもしろポイント。ひたすら世界中にある変な法律(カリフォルニア州では「カエル跳び大会」で使われて死んだカエルを食べたら違法……とか)の知識を披露していくという、言ってしまえばただそれだけの作品ではありますが、少年とお姉さんの関係性や過去の出来事の掘り下げが少しあったり、飽きない聴取体験をしてもらうための工夫を感じるところが良かったです。
BGM/SE/環境音なしという大味な作りでここまで面白くできるとは恐れ入ります。編集技術が向上したら誰も手を付けられないサークルさんになるかも……。
『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』はDLsiteで購入いただけます。
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01535087.html/
『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』(ざわざわーるど)
正直この作品、聴くのかなり勇気が要りました。主についていけるかなっていう不安ですね。しかし聴き始めればあら不思議、あっというまに最後までいけてしまう。
「ざわ」という、獣でもないしスライムでもない謎の生物が我々のいる社会に何気なく紛れ込んでいてせこせこ働くという、これまた不条理な内容なのですが、この作品、端的に言うと凄い技術でふざけたことを大真面目にやっているんですよね。作者の方、脚本、出演、音声編集だけじゃなくDTMもされているらしく。音声作品としての完成度が非常に高い。ガワが「ざわ」だからと侮るなかれ……という。内容は日常系よろしくあって無いようなものなんですけど、妙にクセになるんですよこの作品、っていうか「ざわ」自体がクセになる。コメディとか日常とか、そういうカテゴライズを超越した「ざわ」というジャンルを作り出していると言わざるを得ない。このシリーズ、新作出たら絶対に買います。完全にざわの世界に引きずりこまれました。天然でやってるように見えて、人を楽しませるための計算を感じる一本でした。
『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』はDLsiteで購入いただけます。
https://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ01604467.html
『隠り世の鳥』(碧空プラネタリウム)
M3春2026に新作は出されていなかったようですが、ブース出展されていたので旧作で気になったものを購入。
血のように赤い眼の女性について探るという伝奇的な内容。座敷牢でかの女性と対峙するシーンなんかはオーディオドラマの良さがかなり出ていました。音だけで想像するが故の不気味さ。この作品自体はジャンル的に必ずしもそう括れないとは思うのですが、ホラーとオーディオドラマって相性良いだろうなと常々思っています。人間は未知のものに恐怖を抱くので、視覚情報を封じられれば尚更というわけです。取っ組み合いのシーンとかも迫力が凄かったなー。殴る音の鈍さと重厚感。
ちょっと気になったところとしては、ライターの主人公と相棒の編集者、演者さんの声質が似てて「これどっちが喋ってるんだ?」って困惑する現象が物語前半に頻発しました。基本前者がタメ口、後者が敬語なのでそこで聞き分けられると思いきや、主人公が敬語になるシーンもあったりして「うおおおお!」となりノイズになってしまい。オーディオドラマの難しいところですよね。
『隠り世の鳥』はBOOTHでご購入いただけます。
https://booth.pm/ja/items/5693652
『口を出すなら耳を貸せ!』(イロガミのブーケ)
当日は入手できなかったのですが、Xスペースで一緒に感想会をやった月宮はるさんのプレゼンを受けてBOOTHで購入。
物語に通る一本の筋としては、「大学のサークルで意見を戦わせたり、すれ違いがありながらも、最終的にはお互いに歩み寄って理解し合い、作品を完成させる」という青春物語なのですが、この作品はかなり挑戦的なことをやっています。まず「ボイスドラマを作るボイスドラマ」というコンセプト。しかもその結果完成した作品もまた「ボイスドラマを作るボイスドラマ」なので、映画『インセプション』みたいに、ワンテーマの入れ子構造でどんどん深部へと潜っていく構成。それ自体がチャレンジングなことと言えます。そして最終的に、その仕上がった作品の全編を我々が聴くことになります。大変面白い試み。
もう一つは演出ですね。前のエピソード(第2話)で「モノローグがめちゃ長い」と下村さんに指摘された脚本家の雅弘くんが、冒頭からめちゃ長いモノローグを披露するところから始まる第3話なのですが、彼がボイスドラマを作るきっかけになったシーンの演出に度肝を抜かれました。彼がラジオでボイスドラマを聞いているシーンを、スタートからラストまでノーカットで流しきる。要は彼の追体験をリスナーがすることになる。オーディオドラマの良い所ですねー。
あと、好きなセリフがあって。「俺まじ、ボイスドラマとかどうでもいいんだわ」「俺、お前と一緒に何かできればそれで良いと思ってたから」。これ、芯を食ってますよね。学生時代のサークルとか部活って、たいていの人にとってはそんなものじゃないですか。でも、そこから何かが結実することもあるだろうし、そういう時間って大人になってから振り返ると宝物なんですよ。私も大学時代は演劇部にいたので、色んなことを思い出して胸が熱くなったり。創作者必聴の一本です。
『口を出すなら耳を貸せ!』はBOOTHでご購入いただけます。
https://booth.pm/ja/items/8039427
最後に
オーディオドラマ界、今とても熱いと思います。次のM3秋でもたくさんの出会いがあることを期待しています。
箱舟壱座の新作も現在鋭意制作中ですので、お楽しみに。