【ネタバレあり感想】朗読劇『あなたの海は何色ですか?』滅びのなかで見出すものとは

劇団VoiceTripさんの朗読劇『あなたの海は何色ですか?』を鑑賞しました。

同劇団の代表えど氏は交流会で知り合った縁で、オーディオドラマとはややフィールドが異なりますが、創作活動に対する考え方が私と近く意気投合したという経緯があります。その方が代表/脚本をされている朗読劇ということで、楽しみに劇場へと向かいました。

オーディオドラマのような繰り返し楽しめるようなものではない「生もの」であるため、あまり配慮する意味もないかなと思い、今回はがっつりネタバレします。今回は再演とのことですが、もしかしたら再々演ということもあるかもしれませんので、気になる方はご注意いただければと思います。

良かったところ

4人のメインキャラクターおよびその演者がどなたも魅力的でした。
特に、我々の価値観では屈強な大男としか思えないイヌマオが可愛い女の子(戦士でもあるようだけど)というギャップは、きっと声だけでも効果的でしょうが、演者のビジュアルが明らかになる朗読会ならではの面白さがあったように思います。男性が女性役をやる舞台は他にも観たことがありますが、だんだん本当に可愛い女の子なんじゃないかって思えてくるのが不思議です。慣れって怖いですね。あるいは演者の力でしょうか。

内容としては、「海って普通黄色じゃないの?」という最序盤のトーマスの台詞から一気に作品の世界観に引き込まれました。違う惑星からやってきて、地球に不時着して、そこが既に滅亡していて……というような特殊な状況はナレーションで説明してしまいがちなところ、登場人物の少ない台詞で展開させ、観客を物語へスムーズに導くのは、観客に楽しんでもらうための作り手の工夫、脚本力に他ならないでしょう。
また、アリスは透明なマスクがあってやっと荒廃した世界で生きているのに、何故それがない執事は平気そうにしているんだ?という鑑賞中の疑問に対しても、その理由が終盤の展開でしっかりと回収されるのが良かったです。全体としては、細かいところを追っている観客が損をしない構成になっています。

演出について、映像を使った演出はリアルイベントならではで非常に楽しめました。もう会うことのできないであろう過去の人物(トーマスの上官とアリスの父親)と会話をするシーンにおいて、会話相手のセリフがタイプライター風のテキストで表示されていたのですが、メインキャラクター4人以外の声が敢えてミュートになっているのは、滅亡して閉じてしまった世界観を演出する大いなる助けとなっており、味わい深い雰囲気を醸し出していました。

気になったところ

私が観賞した夜公演はifルートとのことですが、アフタートークで昼公演(正史)の話を聞いて「なるほど」と思い、そちらの方を鑑賞したかったというのが正直な気持ちです。

というのも、トーマスの接吻でイヌマオが落ち着いて物語が終結に向かうというのが本来の流れだったところ、ifルートではそうではなく、更に執事による接吻で事態が収束するという展開に変わっていたそうですが、この内容は脚本上のトーマスの存在意義を薄めるものとなってしまっています。私が観れなかった正史の場合は、一人生き残った地球人のアリス、重大な正体を隠されているその執事、父親の研究成果を発掘するためのパワーを持つイヌマオ、それを最後に鎮めるトーマス……といった具合に、物語における役割が綺麗に分担されていたはずなのです。これが周回プレイできるノベルゲームならば焦点の当たるキャラクターが違うということで納得感があったでしょうが、生ものである朗読劇となれば話が変わってきます。再演とのことですし、1日2ステやるので複数回観に来てくれるファンのために仕掛けを施したいという意図があったであろうことは理解できますが、私のように前回公演に来ておらず今回もifルートしか観ていない観客も少なからずいらっしゃったようでした。そもそもWキャストで上演する時点で変化を加えることにはひとまず成功しているので、この朗読劇がVoiceTripさん初見である私個人の目線としては、今回のifルートは蛇足と感じてしまいました(夜公演でifルートをやるということはチケット予約の時点で開示されていたものの、上演期間が1日なので時間帯が合わずでした)。

あと、非常に細かいのですが、地球人でないはずのトーマスとイヌマオがドイツ発祥であるフランクフルトのことを知っていたり、日本の諺を引き合いに出していたところは「ん?」と思いました。事前に地球のことをリサーチしていたということなのかもしれないのですが、それなら海の色について知らないのは変だよな……とか(それを言うなら、何で異星人である登場人物たちが同じ言語で会話できてるんだとか色々疑問点は出てきてしまうのですが、そこまでの理屈を朗読劇の尺の中で詰め切るのは難しいだろうな、とも)。あるいは、彼らフランクフルト/当該の諺にあたる異星人独自の文化を我々地球人向けに翻訳している結果なのかな、とか、惑星間での交流が存在する世界観なのかな、とか。そのあたりのリアリティラインがよく分からなくなる瞬間がありました。

最後に

色々書きましたが、何よりも朗読劇のリアルイベントで、2公演合わせてキャパを完全に埋めていらっしゃったのが素晴らしいと思います。
創作活動は好きだからやっている、と言えばそれまでですが、活動を持続可能にするためにはファンからの応援が必要不可欠です。それはオーディオドラマにおいても変わらないので、学ぶところが大いにある劇でございました。

今後も公演を予定しており、規模の拡大も考えていらっしゃるということなので、ご活躍を楽しみにしております。

M3春2026で入手したオーディオドラマの感想

M3春2026で入手したオーディオドラマのうち、「これは!」と思ったものをピックアップして感想を書いていきます。

★紹介作品
『名もなき星たちの祈り』(Production Luna Nova)
『悪魔のレシピが残された』(めみゅっと)
『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』(かせいさんとこ)
『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』(ざわざわーるど)
『隠り世の鳥』(碧空プラネタリウム)
『口を出すなら耳を貸せ!』(イロガミのブーケ)

性質上、3割ぐらいはネタバレしますので、情報を入れたくない方はご注意ください。

『名もなき星たちの祈り』(Production Luna Nova)

第二次世界大戦終戦直後の日本を描いた作品なのですが、こういったテーマを取り扱うにあたり「戦争を経験していない人間に何が描けるのか?」と問われたら、はっきり言って返す言葉はないでしょう。しかし、その戦争経験者の方々から直接お話を伺うことは難しくなってきている昨今、我々が語り継ぐ番となっていることもまた事実。実際に経験していなかったとしても、記録として残されたものから想いを馳せることはできます。それなりの覚悟が要るでしょうが、作中通して終始丁寧にその時代に生きた人々を描き切ったのは見事でした。

Luna Novaの作品は聴取後に穏やかな気持ちになる綺麗な世界を描くことが多いのですが、この作品はその殻を一つ破ったと思います。時代背景に裏打ちされた緊張感のある展開や、国を愛しているからこその心無い言葉、そして戦地での過酷な経験。聴いていてストレスにもなりうる描写を勇気をもって挿し、綺麗に終わるかと思いきや、もう一山あって終着点に至る。テーマ性はもちろんですが、エンタメ性も忘れずに盛り込んでいるところに好感が持てます。何度も言ってますけど、私は現状のLuna Novaの作品群の中ではかなり好きな一本です。

『名もなき星たちの祈り』はBOOTHでご購入いただけます。

https://lunanova-pro.booth.pm/items/8259327

『悪魔のレシピが残された』(めみゅっと)

『地下施設』『宇宙人』『火球』『悪魔のレシピ』……。興味をそそられるキーワードを、なんてことない日常に散りばめながら、最後は日本の中心・岐阜を舞台に、国の水面下で走っている壮大な計画の全貌が明らかになってゆくという構成。第一話の、ボイスレコーダーで日記をつける習慣がある主人公の話が出た時は「なんだそれ」と思ったのですが、それが思わぬ形で役に立っていくというギミックには膝を打ちました。やってることはナチュラルにヤバいんですけどね。コンカフェ嬢を追いかけていったら山奥までたどり着くってお前……。自分が異常じゃないと確信している演出がリアルで気持ち悪かったです。めみゅっとさんの強みである臨場感のある音声編集で没入感は申し分ありません。

この作品には実際の地名が出てくるのですが、ドラマとかバラエティ番組でも、知っている/言ったことのある場所が出てくるとテンション上がりますよね。極めて個人的な話なんですけど、東武東上線が最寄りの地域に住んでいた時期があるので、和光市が舞台のエピソードを聴いている時はなんかすごく嬉しかったです。

あと、高校生たちにスポットが当てられるエピソードがあるのですが、高校生にしてはえらく丁寧な言葉選びと喋り方をするところが少し気になりました。脚本家の癖というか、敢えてなんですかね。

『悪魔のレシピが残された』はBOOTHでご購入いただけます。

https://booth.pm/ja/items/8204787

『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』(かせいさんとこ)

題名が作品の全てを表している。初手でとっ捕まっているお姉さんに少年(≒聴取者)が会いに行くところからスタートし、過去に行ってきた変な法律の体験を述懐します。いろいろな、っていうかおびただしい数の法律を犯しているので、話せば話すほどお姉さんの設定が盛られていくのが、なんとも不条理でありおもしろポイント。ひたすら世界中にある変な法律(カリフォルニア州では「カエル跳び大会」で使われて死んだカエルを食べたら違法……とか)の知識を披露していくという、言ってしまえばただそれだけの作品ではありますが、少年とお姉さんの関係性や過去の出来事の掘り下げが少しあったり、飽きない聴取体験をしてもらうための工夫を感じるところが良かったです。

BGM/SE/環境音なしという大味な作りでここまで面白くできるとは恐れ入ります。編集技術が向上したら誰も手を付けられないサークルさんになるかも……。

『いろいろな法律を犯すカスのお姉さん』はDLsiteで購入いただけます。

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『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』(ざわざわーるど)

正直この作品、聴くのかなり勇気が要りました。主についていけるかなっていう不安ですね。しかし聴き始めればあら不思議、あっというまに最後までいけてしまう。

「ざわ」という、獣でもないしスライムでもない謎の生物が我々のいる社会に何気なく紛れ込んでいてせこせこ働くという、これまた不条理な内容なのですが、この作品、端的に言うと凄い技術でふざけたことを大真面目にやっているんですよね。作者の方、脚本、出演、音声編集だけじゃなくDTMもされているらしく。音声作品としての完成度が非常に高い。ガワが「ざわ」だからと侮るなかれ……という。内容は日常系よろしくあって無いようなものなんですけど、妙にクセになるんですよこの作品、っていうか「ざわ」自体がクセになる。コメディとか日常とか、そういうカテゴライズを超越した「ざわ」というジャンルを作り出していると言わざるを得ない。このシリーズ、新作出たら絶対に買います。完全にざわの世界に引きずりこまれました。天然でやってるように見えて、人を楽しませるための計算を感じる一本でした。

『ざわの大冒険Vol.3-はたらくざわ-』はDLsiteで購入いただけます。

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『隠り世の鳥』(碧空プラネタリウム)

M3春2026に新作は出されていなかったようですが、ブース出展されていたので旧作で気になったものを購入。

血のように赤い眼の女性について探るという伝奇的な内容。座敷牢でかの女性と対峙するシーンなんかはオーディオドラマの良さがかなり出ていました。音だけで想像するが故の不気味さ。この作品自体はジャンル的に必ずしもそう括れないとは思うのですが、ホラーとオーディオドラマって相性良いだろうなと常々思っています。人間は未知のものに恐怖を抱くので、視覚情報を封じられれば尚更というわけです。取っ組み合いのシーンとかも迫力が凄かったなー。殴る音の鈍さと重厚感。

ちょっと気になったところとしては、ライターの主人公と相棒の編集者、演者さんの声質が似てて「これどっちが喋ってるんだ?」って困惑する現象が物語前半に頻発しました。基本前者がタメ口、後者が敬語なのでそこで聞き分けられると思いきや、主人公が敬語になるシーンもあったりして「うおおおお!」となりノイズになってしまい。オーディオドラマの難しいところですよね。

『隠り世の鳥』はBOOTHでご購入いただけます。

https://booth.pm/ja/items/5693652

『口を出すなら耳を貸せ!』(イロガミのブーケ)

当日は入手できなかったのですが、Xスペースで一緒に感想会をやった月宮はるさんのプレゼンを受けてBOOTHで購入。

物語に通る一本の筋としては、「大学のサークルで意見を戦わせたり、すれ違いがありながらも、最終的にはお互いに歩み寄って理解し合い、作品を完成させる」という青春物語なのですが、この作品はかなり挑戦的なことをやっています。まず「ボイスドラマを作るボイスドラマ」というコンセプト。しかもその結果完成した作品もまた「ボイスドラマを作るボイスドラマ」なので、映画『インセプション』みたいに、ワンテーマの入れ子構造でどんどん深部へと潜っていく構成。それ自体がチャレンジングなことと言えます。そして最終的に、その仕上がった作品の全編を我々が聴くことになります。大変面白い試み。

もう一つは演出ですね。前のエピソード(第2話)で「モノローグがめちゃ長い」と下村さんに指摘された脚本家の雅弘くんが、冒頭からめちゃ長いモノローグを披露するところから始まる第3話なのですが、彼がボイスドラマを作るきっかけになったシーンの演出に度肝を抜かれました。彼がラジオでボイスドラマを聞いているシーンを、スタートからラストまでノーカットで流しきる。要は彼の追体験をリスナーがすることになる。オーディオドラマの良い所ですねー。

あと、好きなセリフがあって。「俺まじ、ボイスドラマとかどうでもいいんだわ」「俺、お前と一緒に何かできればそれで良いと思ってたから」。これ、芯を食ってますよね。学生時代のサークルとか部活って、たいていの人にとってはそんなものじゃないですか。でも、そこから何かが結実することもあるだろうし、そういう時間って大人になってから振り返ると宝物なんですよ。私も大学時代は演劇部にいたので、色んなことを思い出して胸が熱くなったり。創作者必聴の一本です。

『口を出すなら耳を貸せ!』はBOOTHでご購入いただけます。

https://booth.pm/ja/items/8039427

最後に

オーディオドラマ界、今とても熱いと思います。次のM3秋でもたくさんの出会いがあることを期待しています。

箱舟壱座の新作も現在鋭意制作中ですので、お楽しみに。

【ネタバレあり感想】ボイスドラマ『キネマは月を映さない』人生は映画に似たり

ボイスドラマ制作サークル「Midnight Bloom」によるボイスドラマ『キネマは月を映さない』を聴取しました。

このサークルさんとはこれまで特に交流はなかったのですが、過去作や本作に私がいつもお世話になっている活動者様が何名か関わっているのと、Luna Novaの月宮さんが運営するオーディオドラマクリエイターが集うクローズドなDiscordサーバーがあり、私も加入しているのですが、そこに代表の白蓮様も加入しており本作を宣伝していらっしゃったこと、そして前回記事の作品と同じくYouTube上で1万回再生を突破していることから、興味を惹かれて聴取、感想を書くこととしました。

タイトルにある通りネタバレありです。未聴取の方は以下より聴取ください。

あらすじ

令和のカリスマモデル・野々宮椿。
雑誌やドラマ、CMなど、多忙な日々を送りながら、
彼女は次第に「自分が何者なのか」を見失いかけていた。​

――ある皆既月食の夜。
ドラマの撮影で訪れたテレビ局の倉庫で、椿は古びた映写機を見つける。
赤銅色の月光を浴びた瞬間、それはひとりでに動き出し…気が付けば、椿は大正11年の銀座通りにタイムスリップしていた。

路面電車が行き交い、和洋折衷の建物が並ぶ華やかな街並み。
ざわめきの中、ピアノの音色に誘われて辿り着いたのは、ハイカラな内装と酒と生演奏が楽しめる社交場「ジャズ倶楽部・ルージュ」。そこで彼女は、若き天才ピアニスト・沢田 泪、妖艶で自由奔放な倶楽部の主人・マリィ、そして、駆け出しの小説家・東条 澄人と出会う。

彼らと過ごす日々は、椿に「この時代に残りたい」と願わせるほど、大切なものとなっていく。

帰りたい。――でも、帰りたくない。

二つの時代が再び交わる夜、椿が見つける答えとは――。

『キネマは月を映さない』公式サイトより

とあるジャンルとの類似性

大正時代にタイムリープするというSF的な要素はあるものの、普段の自分とは遠い世界で暮らす人々と交流を重ね、彼らの生き様を見て自分を見つめ直すという、成長物語としては王道な構成となっています。

令和のカリスマモデル、LGBTの要素を持つ倶楽部の主人、父親と確執がある天才ピアニスト、アイディアを求めて倶楽部に通う駆け出しの小説家と、メインキャラクターはいずれもかなり濃いのですが、それぞれが食い合うことなく、全体としてはバランスが保たれています。人物の数も少なめに抑えられていますし、彼らが「ルージュ」の成り立ちや在り方と密接に関わっており、描写の順番も自然で情報の出しどころと出し具合の匙加減がちょうどよく設定されている脚本力はもちろんですが、キャラクター本人が喋っているとしか思えないお芝居も大いに手伝っていると思います。泪とマリィに関しては、「過去の過去」である回想パートと、「ルージュ」時代での彼らの違いは聴きごたえがありました。

特にマリィについては、大正時代、まだLGBTに関する考え方が進んでいない頃、彼女がどんな青春時代を過ごしたのかを想像するだけでも恐ろしいのですが、それを直接的に描くことなく、キャストのNegu氏のお芝居に委ねることでそれを間接的に表現するということに成功しているのが見事でした。

主人公である椿も決して薄味な設定ではないのですが、椿が大正時代に滞在する時間が本編の大半を占めているということもあり、現代人である主人公よりも、彼女がタイムリープ先で出会う現地の人々のほうが主題だと感じます。主人公は異世界に迷い込んだカメラ・アイであり、現代人である我々が物語に入っていきやすくするための狂言回し的な役割も持ち合わせています。彼女の視点から様々な魅力的な登場人物が描かれ、時には彼女のほうから働きかけ、イベントやアクションを引き起こす。……この構図、あるジャンルに似ていると思います。それは乙女ゲームです。

大正時代という異世界に迷い込んだ女性主人公、ほどよい行動力と発言力があり様々な人物から好かれやすい「人たらし」的な性質を持っている、芸能界にいるとはいえど共感しやすい一般的な感性を持ち、絶妙に嫌味が無いように計算されたキャラクター造形。……聴いている途中で「これ、乙女ゲームだ!」と気づいてからは、聴けば聴くほどそうとしか思えなくなりました。もちろん、主人公が作中で彼らのうちの誰か一人を「攻略」するなんてことはありませんが(泪くんとは若干のフラグの匂わせはありましたが)、全体の雰囲気としては類似していると感じました。

このような椿のキャラクター造形は、オーディオドラマとは相性がいいです。彼女のような役割が主人公に設定されていることで、視覚情報がない分、物語のスムーズな理解を助けることができる。これまで、私を含む様々なオーディオドラマ作家が、意図するにせよしないにせよ、こういったエッセンスを取り入れてきたと思うのですが、こうして言語化するきっかけになったのはこの作品です。思わぬ角度からの学びがありました。

因果のループにまつわる思想

タイムリープのメカニズムに関しては、本編内で明かされることはありません。作品の中盤に差し掛かる頃には、「きっとそのことについては触れられないだろう」という察しはついていました。この物語において、その部分は大した問題ではないからです。実際にタイムリープが起きていたのではなく、夢を見ていたとか、椿の先祖が経験したことを追体験していたとか、あれこれ解釈はできるのですが、ここは一旦素直に「実際にタイムリープが発生した」と仮定し、本項での話を進めます。

この作品では、タイムリープ先で行動した結果、タイムパラドックスが起きて並行世界が発生するのではなく、どこまでも世界は一つであり、因果のループが起きるという説を採用しているようです。椿がタイムリープをする前から、『キネマは月を映さない』の主人公が椿に似ているという描写がありますから、どうやら東条が「タイムリープをしてきた椿をモデルにした」という事実はタイムリープの以前/以後で不変のようです。つまり、椿がタイムリープをすることが元から運命に組み込まれているということです。

これは、「自由意志が存在しない」としてネガティブに捉えることもできます。しかし、椿はタイムリープをした結果とその出会いに「意味」を見出している。これ、個人的には結構好きです。「全てが決まっているとしても、意味を見出すのは自分自身である」という考え方ですね。拙作『グレート・オッド・ワン』や『夢見月の終着点』でも同じような事柄を取り扱っているので(後者は増えすぎた並行世界が一つに収束される話なので、因果のループとは違いますが)、このあたりは私も常日頃から興味深く思っているテーマです。

双眸に映る景色は、映画のスクリーンのようなものだと考えてみればどうでしょう?
例えば勧善懲悪の物語を観ている時、結末はなんとなく想像がつきますが、それだけで「つまらない」とはならないでしょう。人生もそれと同じです。「死」という結末は決まっていても、その過程からは様々なものを受け取ることができます。……もちろん、映画を観ているだけでは感じ得ない刺激も現実にはあるのですが。いずれにしても、「鑑賞したものに意味を見出すことができる」というのは、我々「観客」に与えられた特権なのです。

最後に

創作のプロセスには様々な手法がありますが、私は原則としてキャラクター至上主義で作っています。アイディアが浮かび、コンセプトや設定が固まったら、そこから先はその物語に登場するキャラクターをとにかく作り込む(大抵は主人公から作ります)。出来上がったキャラクターがこの世界で動くとしたら、こんな話になるんじゃないか?と考えた結果、物語が生まれる、と。

Midnight Bloomがどういうプロセスで作っているかは分かりませんが、とてもキャラクターを大事にしているサークルさんだと感じました。そういった側面については私のスタンスに近いところがあります。今後の展開や過去の作品についても、機会があれば感想を書いていきます。

【ネタバレあり感想】オーディオドラマ『四度目のめぐり逢い』エンタメとしての音声作品における一つの回答

オーディオドラマスタジオ「Production Luna Nova」制作のオーディオドラマ作品『四度目のめぐり逢い』を聴取しました。

「Production Luna Nova」は前回記事で取り上げた「にくじゃが」と同じく第4回ラジドリコロシアムで競い合った団体であり、出場作は同大会で準優勝を獲得しています。大会終了後、Luna Nova代表の月宮はる氏とNoah RevがXスペースにて対談を実施、その後も交流が続いており、箱舟壱座とは理念や作風は異なっていても、目指しているところはさほど遠くないと互いに認識していることもあって、個人的に活動を楽しみにしている制作チームの一つです。

そんなわけで、昨年11月に公開された、Lune Nova2年ぶりの長編作品と銘打たれている『四度目のめぐり逢い』につきましては、「こりゃあ、聴いて感想を書かねばなるまい」という想いがあり、筆を執った次第です。

タイトルにある通りネタバレありです。未聴取の方は以下より聴取ください。

あらすじ

2011年、秋。

中学3年生というタイミングで、それぞれ異なる環境の中進路に迷う樹と佳澄。
そんな時、ふたりが密かな楽しみに聞いていたラジオをきっかけに、一度目の“すれ違い”が起こる。

5年が経過した2016年。
大学生になった樹と佳澄は、お互いの生活の中で忙しなく夢を追う日々を送っていた。
そしてとある夜、偶然を装いながら二度目の“すれ違い”を経ることになる。

2020年、春。
社会人として夢を叶えたふたりだったが、新型コロナウイルスが猛威をふるい始め、悩み迷いながら暗中模索を繰り返していた。
しかし、目に留まったひとつの記事がきっかけで、運命の糸が再度交差する。

三度のすれ違いを経て、舞台は2025年、秋へ──

15年という月日の答え合わせをするように、
ふたりは四度目のめぐり逢いへと導かれていく。

『四度目のめぐり逢い』YouTube概要欄より

エンタメが持つ力

いきなり私事で恐縮なのですが、私はラジオが好きです。今も毎週欠かさずに聴いている番組があります。そんなラジオを聴いていて思うこと。

どんな人間であっても、生きていれば様々な想定外のことが起こります。
家族とのすれ違い。友人関係の終わり。仕事での大きな失敗。はたまた、疫病や軍事行動、センセーショナルな事件などの情勢の変化。それらが身に降りかかり、不安に苛まれている時も、番組のパーソナリティたちはプロとして普段通りのトークを繰り広げてくれます。それに、ただそれだけのことに、たまらなく癒される瞬間があります。

ラジオに限ったことではありません。好きなTV番組でも、好きなゲームでも、好きなアーティストのライブでも、好きなクリエイターの作品でも。あらゆるエンタメが人を救う、なんて大層なことを言うつもりはありません。しかし、「もうすぐ好きな番組がやる日だから」、「もうすぐ新作が出るから」、「それまでは頑張ろう」……それぐらいの、人々の背中をほんの少しだけ押す力を、エンタメは確かに持っている。

その事実を、この作品はとても丁寧に描いています。背中をほんの少しだけ押してくれるエンタメとして、ラジオを取り扱っているのはとても秀逸です。「作中作」としてラジオが流れることにより、それを聴いている登場人物の体験を、リスナーも自然に追体験することができるからです。この点において、『四度目のめぐり逢い』は、オーディオドラマが最も表現に適した媒体となっていると言えるでしょう。

聴かせる力

この作品は、登場人物に変化は起きるのですが、激しい起伏はありません。それが長編として約80分続くのですが、聴いていて全く飽きる瞬間がなく、作品終了までの体感時間は早く感じました。長尺でリスナーの興味を持続させようと思うと、中盤から終盤にかけて劇的な展開を畳みかけるというのが手段として挙げられますが、Luna Novaの作品は原則としてそういった道を選びません。終始居心地の良い劇伴と芝居がうまく作用し、リスナーは凪のような時間を過ごすことになります。そこには、先に述べた「普段通りのラジオを聴いて癒される」という体験と似通った部分があります。これは、脚本の構造が絶妙に練られているからこそ成り立っていることです。

例えば、三度目のすれ違いにあたる2020年は、作中でも現実世界と同じように新型コロナウイルスが流行します。このあたりは大きな変化であり、我々の世界とリンクし始めるところなので、リスナーも作中で起きるイベントの当事者になった気分になります。このあたりの展開が中盤に差し込まれているのが巧いです。それまでの丁寧な主人公二人の人物描写と、「歴史再解釈もの」的なエッセンスを持つ中盤からの展開により、物語の終結まで一気に聴取者を連れて行ってくれます。

そして四度目のすれ違い。いよいよ二人が互いの素性を認識した上で対話をする。これはすれ違ったというよりも「邂逅」、「めぐり逢い」と呼ぶべきかもしれません。しかし、それを経て彼らはまた自分たちが歩むべき道に戻っていく、という意味では、やはり「すれ違い」なのでしょう。その後、彼らが五度目にめぐり逢うのかどうか、その果てに何かが結実するのかどうかは、作中では描かれません。それ以上、何か重要な意味を果たすのかもしれないし、果たさないかもしれない。その答えは誰も知らない。人生とはそういうものだからです。この物語はそれでよいのです。

敢えて描かない、これは「リスナーを信用している」ということの証左でもあります。

リアリティラインについて

リアリティラインという概念があります。作品におけるストーリーの現実度と、その一貫性のことです。『四度目のめぐり逢い』で起こっている出来事は、SFやファンタジーのような神秘性はなく、現実でも起こり得るようなことで構成されています。つまり、リアリティラインが高い作品と言えるわけです。

基本的にその高いリアリティラインは保たれているのですが、それ故に聴いていて気になることが一つありました。それは、主人公二人に対するカウンターとなる考え方を持つ人物や、師匠にあたる人物の物分かりが、いささか良すぎるきらいがあるということです。

これは、理念に沿った作品作りをするための、凪のような時間を保つための意図的なものだと思います。
例えば、本来、息子のために弁護士の道を丁寧に舗装してきたような父親なら、息子から違う道を志すと宣言された時、激情的になってもおかしくはないと思います。もちろん、裏では激しい感情が蟠っていたけれど、作中ではそれを敢えて切り取って描いていない……、という解釈もできなくはないのですが。

これはかなり悩ましいな、と思います。私はリアリティラインの高い作品をほとんど作らないし、恐らく今後も作ることはないので、「じゃあどうすればいいんだ」という疑問に対するアンサーは(提唱しておいて無責任なのは承知ですが)、出すことができません。いずれにしても、どこまでリアリティラインを追求するか、というのは、それが高い作品を作る上で、永遠の課題になるのだと思います。

こういったジャンルは私には手を出せない領域なので、創っている方々は本当に凄いなと思います。

最後に

この作品は2026年2月現在、1万回再生を突破しています。YouTubeで公開されているオーディオドラマでこれはかなり高い数値です。

私が認識している、Luna Novaにあって箱舟壱座にはない明確な強みとして、「オーディオドラマを全く知らず、エンタメに精通しているわけでもない人に勧めやすい」というのがあります。
オーディオドラマ界を盛り上げるにあたり、その広い入り口となる作品は必要不可欠です。そういった立ち位置の作品を制作し、広めていける団体として、今後のLuna Novaの活躍に期待しています。

【ネタバレあり感想】ラジオドラマ作品集『NITAUMARI』具沢山で煮詰めたオムニバス

ラジオドラマ制作ユニット『にくじゃが』による、2025年の夏コミ出展作『NITSUMARI』を聴取しました。

かねてより『にくじゃが』は『箱舟壱座』と縁がありまして、第4回ラジドリコロシアムでは同じ出場団体として競い合い、後に『バースデイ・リバース』というコラボ作品を世に放ちました。時期としてはだいぶ今更な感想記事になるのですが、聴き終えて「こりゃ書かねばなるまい」と思い、筆を執りました。

オムニバス形式につき、各作品ごとに感想を書きます。
タイトルにある通りネタバレありです。未聴取の方は以下よりご購入ください。

https://nikujagavoicenovel.stores.jp/items/689da77c1d03e939d63ff76a

EP01. ドカ食い潜入捜査

私の出身地である名古屋にはマウンテンという老舗の喫茶店があります。甘口抹茶小倉スパをはじめとする普通ではないフードを食べられるお店で、B級グルメ界隈では高い知名度があるとか。

私も学生時代に行ったことがありますが、この手の食べ物はあくまでも仲間とはしゃぎながらつつくぐらいが楽しいのであって、潜入捜査のために大量の品を食べなきゃならんと考えるとゾッとします。そんなわけで、1トラック目から胃もたれするような題材の作品を持ってくるあたり非常に挑戦的で、『NITASUMARI』から『にくじゃが』に入ったリスナーには強烈なインパクトを与えること請け合い。最初から躊躇いなく「いかつい」具材を投入する、これが『にくじゃが』流の”つかみ”ということなのでしょう。買ってもらったからには、最後までついてきてもらおうという気骨を感じます。

オチにあたる違法賭博の正体がどうでもよくなるぐらい、料理の内容と捜査官二人のやりとりが珍妙で楽しめました。言うなれば、味が濃いものに味を濃いものをぶつけられ、デザートにも味が濃いものが出てくるような状況であり、そういう意味でも胃もたれする作品。狙ってやっているのであれば殊勝なことです。

秋山、お前は何しに来たんだ本当に。

EP02. MY PROFILE

ちょっと珍しいことが書いてある名刺を受け取ると、会話のフックになることがよくあります。多分そういうところから着想して、「プロフィールカードなら尚更だろう」と思い至って作られた話なのでしょう。ビジネスマンあるあるですね。「うちの業界ではプロフィールカードを交換するのがスタンダード」とか言っていましたが、終始なんの業界なんだかサッパリ分からないままだったのが面白い。

A,B,C,D…と続く言葉遊び、聴いている全員が気づくと思うんですが、O,Pあたりにもなってくると「次はどう来るんだ?」とか期待しちゃう自分がいて、蓋を開けてみたら「QRコード」が出てきたところ、メチャクチャくだらなくて最高でした。

EP03. ブレインズクリーニング

個人的には『NITSUMARI』の中で最も『にくじゃが』らしさが出ている一本でした。独特な味付けだが、食材は「日常で感じるちょっと痒い部分」といったありふれたもの。記憶って全ての人間が平等に向き合うものじゃないですか。黒歴史だって誰にでも一つや二つあります。蓋をしがちなところを、まっすぐ受け止めてポジティブなエネルギーに変換するという素敵なお話。

物語の結構早い段階から「これ、どこで話してるんだ?SF的な技術を使って精神世界にダイブしてるのか?そのへん敢えて曖昧のまま終わらせる奴だろうな~」とか色々小難しいことを考えながら聴いていたのですが、最後の最後で主人公が「っていうかここ、どこの話なんですか」とか率直な気持ちを吐露したところで噴き出してしまいました。佐藤ユウ、こういう絶妙なタイミングで梯子外すの好きですよね?

言うなれば、ブレイズクリーナーたちはセラピストということになるでしょうか。黒歴史と正面から向き合わせ、蟠りという埃を掃除するというのは荒療治な気もしますが、それはあくまでも顧客が望んだこと。決まった手法を押し付けることなく、個人に合わせた最適解の提示を試みる、素晴らしい腕をお持ちなのでしょう。知らんけど。

EP04. 学級崩会

小学校の頃、誰かというか学級全体が何かをやらした結果、反省会みたいな時間になったことってありませんか?あれ、ただただ気まずいだけで不毛だなぁと思っていたんです。そんな苦い記憶を思い出させるような冒頭だったのでむずがゆかったのですが(向き合えってことなのかな?)、被害者の顔して泣きじゃくりながらエグいワードを連発されたことで全てが吹っ飛びました。畳みかけるの笑うからやめてくれ。何重にも入れ子構造になっているので荒唐無稽に思えるけど、加害者が被害者面をするってこと自体は普遍的な現象ですよね。SNSをやっていれば簡単に見つけることができます。

最後、SNSの反応を声で表現しているシーンが入るのですが、蛇足かも?と思いました。
オーディオドラマを最後まで聴けるような人間は、あの投稿をインターネットの海に放流したら、どんな事態になるかは容易に察せるはずです。SNSに投稿後、通知音がけたたましく鳴り続ける。その内容は、明言するまでもない……ぐらいの終わり方のほうが、始まりから中盤まではジメジメ、最後はカラっと仕上がる。それもいいと思います。脚本のアイディアのスタート的には、やりたかった演出なのだろうとも思うのですが。

EP05. 牧本さんの肉じゃが

『にくじゃが』が『肉じゃが』を本格的に取り扱った話は、私の与り知る範囲ではこれが初めて(もしあったらすみません)。ユニット最初の頒布物ということでトリに相応しいと考えたのでしょう。5作品の中では最も長尺であり、気合を感じる一本です。

この作品はとにかく音作りが秀逸でした。玄関の扉を開けた時に聞こえてくる踏切の音とか、少々生々しさすら感じる主人公の咀嚼音とか。これこれ、これぞオーディオドラマよ……という醍醐味を感じさせてくれます。オーディオオンリーを作り続けている人間が培ってきた独特な感覚によるものですよね。素晴らしい編集とお芝居でした。

隣人からのお裾分けは、実は製薬会社の生き残り戦略だった。そしてその開発されていたものこそが、最後のお裾分けに繋がる。極めて良くできた作劇です。しかし、でき過ぎているとも言えます。先述した通り、このお話の出発点は「肉じゃがをテーマにする」というところにあるのだと思います。肉じゃがと言えば、隣人の作り過ぎ。隣人の作り過ぎと言えば、お裾分け、ではお裾分けの真意とは……と考えていった結果、この物語に辿り着いたのだとすると、良くも悪くも「肉じゃが」を中心に世界が構築されていく。それはテーマが一貫しているということでもある一方で、人物や設定がテーマを引き立てる舞台装置と化しているとも言えるわけです。実際、製薬会社が敢行したプランには少々無理を感じないでもなかったり。スタッフの隣人の皆が皆、主人公みたいに奇妙なお裾分けを素直に受け取ってくれる想定なんだろうか?とか。それが「ちょっと不思議」ということなのだと言われれば、それまでなのですが……。

この作品は唯一、聴き終わった後に速攻で2週目に入りました。ブックレットにも記述がありましたが展開はめまぐるしく、20分ほどの中編ということもあって情報量が多め。全て分かった前提で聴くと、人物の言動やお裾分けアイテムの内容にニヤリとできます。

全体を通しての感想

好きすぎるあまりにくじゃが厄介オタクになりかけているところがあるので色々書いてしまったんですけど、全体としては大変満足しました。今更ですが『にくじゃが』チームの皆さん、制作お疲れ様でございました。

脚本/監督を担当している佐藤ユウ氏とは裏で色々と話しており、水面下で動いている企画があったりします。『にくじゃが』での活動も含め、今後の展開が楽しみです。

M3 2025秋で入手したボイスドラマの感想

前回記事にした通り、M3 2025秋にブース参加しましたが、空き時間にいくつかブースを周りボイスドラマ作品を入手しました。

その中でも、「これは!」と思ったものをピックアップして感想を書いていきます。
イベントの開催終了から二か月ほど経ってしまいましたが、せめて2025年のうちには……と思い記事にすることにしました。

本当は各作品ごとに一つずつ記事を書きたいぐらいなのですが、まとめての感想になることをご容赦ください。

『誰そ彼の箱庭』

サークル:碧空プラネタリウム

私の調べる限り、遅くとも2006年から活動されている古参のサークルさんの作品です。編集およびお芝居の技術がとても安定しており流石の貫禄。伝奇的な雰囲気のある物語なのですが、劇伴と効果音のチョイスが絶妙であり、世界観を引き立てることに成功していました。

命名が独特で、例えば「ニワ」という登場人物がいるのですが、作中で初めて言及がされる時の演出が、少し間を置いて──「……ニワ?」と。初めて耳にする時、何のことだろう?と引き込まれ、次第にある人物を指していることが分かるといった効果は、オーディオオンリーにしかできない面白味だと感じました。

人物が台詞で状況を細かく説明する箇所がいくつかありました。耳だけで物語を理解してもらおうとすると、ある程度の状況説明は必要なのですが、やり過ぎると台詞として違和感が出てくるのは、ボイスドラマ制作者ならば誰もがぶち当たる壁だと思います。例えば人間が突然正体不明の穴に落ちた直後、「何だろうここ?あたりに綿毛が飛びかってる……」みたいなこと、言うのかなぁとか。この作品はナレーションを効果的に使っていたので、いっそのこと小説でいう地の文の役割としてナレーションを全面的に頼っていたとしも、雰囲気には問題なく溶け込んでいたのではないでしょうか。

『誰そ彼の箱庭』はBoothでも入手できます。

https://booth.pm/ja/items/6854803

『セレスティアの巫女』

サークル:涓滴會

サークル名はケンテキカイと読むそうです。

この作品を聴いた後にクレジットを見て驚嘆したのは、作中の作編曲・作詞をサークルのhirame氏が担当しているということです。ミュージカルのように物語の途中で歌唱が差し込まれるのですが、それだけではなく、恐らくですが劇伴の作編曲も担当されています。大抵のボイスドラマは、Web上の無償/有償の音源ダウンロードサービスから劇伴をピックアップしているものですが、この作品はそうではないということです。作られた楽曲はどれも魅力的であり、ハイ・ファンタジーに属するであろう『セレスティアの巫女』が持つ独自性を強固なものとしていました。

ストーリーは難解でした。この作品でしか登場しない専門用語が飛び交い、専門用語を専門用語で説明し、どこで誰か何をしているのかを掴むことができませんでした。ただ、全てを理解させることを目的とせず、我々がいる世界とは別の世界の観測結果を断片的に共有する、といったことをテーマとしているのであれば、それは成功していると思います。いずれにしても、他では絶対に味わうことのできないテイストを提供できるサークルさんだと感じました。

『ポチっと、ミラクルプラン!?』

サークル:めみゅっと

サークル関係者に音声監督や声優講師などをされている方がいるということもあって、私のあずかり知る範囲では最もシステマチックにボイスドラマを制作しているサークルさんです。公式Xでは制作工程や裏話的な内容をよく発信されており、よく制作の参考にしています。

怪しい動画広告とそこで紹介されているヘンテコな商品という設定を共有したオムニバスなのですが、脚本、編集、演出、キャストの技術のどれもが高水準であり安定感がありました。私のお気に入りは『04_ターゲットロックP』です。話のベースはよくある浮気調査の展開ですが、人を食ったようなオチがとても魅力的で好みでした。『07_株 No Fail Mentor K』は、作中では特に言及がなかったですが、もしかしたら姉妹アプリ間で顧客情報が共有されているのかもしれないな、と。現代美術の展示のチケット、開発企業が協賛しているとはいえ、突然出てきたなぁと思ったので。短くて8分、最も長くて30分程度のオムニバスですが、サクっと聴けるだけでなくそういった深みも味わえました。

後半、「好きな人が想定とは違う人だった」という男女関係を軸にした話が続いたのは、意図的なものなのでしょうか?

『ポチっと、ミラクルプラン!?』はBoothでも入手できます。

https://memut.booth.pm/items/7536616

『完全★超ヴィラン?』

サークル:もちのキモチ

善良度が増した『秘密結社鷹の爪』のようなキャラクターとストーリー。ジャケットを見る限りですが、どう考えても一番腕っぷしが強そうなボスではなくピンクが怪力担当というギャップが面白い(多分鎧の中はスカスカなんだろうな……)。グリーンは声優の怪演により名バイプレイヤーぶりが際立っており、メインキャラの個性が魅力的な作品でした。いくらでも話が作れそうな設定で、もっと違うエピソードを聴いてみたい。

一つ興味深いことがあったのですが、ボスというキャラクター、鎧が脱げたり想定外なことが起こると、普段の威厳から一転、喋り方どころか声からまるで情けなくなるという演出があるのですよね。これが、最初聴いた時「あれ、なんか違う人出てきた?」と一瞬混乱したのです。要するに演じ分けがウマすぎて同一人物であると理解するのが遅れたということです。恐らく映像がついていれば起こらない現象でした。

『完全★超ヴィラン?』はBoothでも入手できます。

https://mochinokimochi3.booth.pm/items/7593148

最後に

M3の作品の感想記事は初となります。

前回記事で触れましたが、ボイスドラマはまだまだマイナージャンルです。作るだけではなく、盛り上げていくという心意気が大事だろうということで、全てのクリエイターが求めているであろう感想をまずは自分から発信していこうと思い立ち、執筆した次第です。

今後も継続していこうと考えています。M3以外にもまだまだ感想を書きたいボイスドラマ作品のストックがあるのですが、それらはまた2026年に。

【ネタバレあり感想】声劇企画『JOKERS』カードを切るために必要なもの

こひらみかん 様の声劇企画『JOKERS』を全編聴取いたしました。

作品の形式としてはサウンドオンリーの「声劇」(=ボイスドラマ)であり、Noah Revがこれまで制作してきた映像演出付きの「ビジュアルボイスドラマ」とは趣が異なります。ですが、企画/脚本/編集を担当しているこひらみかん様については、インターネット発の企画を出していること、声優さんを起用する作品制作をしていること、キャラクター創造の考え方など、Noah Revとの類似点があり、誠に勝手ながら個人的に意識している作家さんの一人でもあります。

今回『JOKERS』を完走したことで刺激を受け、また大変楽しませていただいたため、拙筆ながら感想を綴ることにしました。

タイトルの通り、ネタバレには配慮をしていない記事となりますので、気になる方は自衛をよろしくお願いいたします。

あらすじ

とある時代、とある国。

港に面した少し物騒な下町ロヴェーレに「Café & Bar JOKER」という店があった。

オーナーのイザベラはこの店を「何にでもなれる場所、誰もがトランプのJOKERになれる場所」と言い、客の相談にのったり仲介役をしたり、助けを求める客の頼みなら危ない橋もたまに渡る。

これはそんな店で働く、家族のような店員たちの物語。

声劇企画『JOKERS』公式ウェブサイトより

『JOKERS』はイザベラに近づく物語

本編はプロローグ+全5章であり、それぞれの章はCafé & Bar JOKERのメンバーの誰か1人にスポットが当てられたストーリーとなっています。

Prologue
↓
1.Alicia
↓
2.Louis
↓
3.William
↓
4.Alan
↓
5.Izabella

イザベラがCafé & Bar JOKERを開業するまでに出会った仲間たちは、時系列で並び替えるとアラン→ウィル→ルイス→アリシアとなるので、各章の主役順とちょうど逆になります。つまり、徐々にイザベラの原点に近づく構成となっていることが分かります。

ですが、プロローグから「4.Alan」までは、聴けば聴くほどイザベラのことが分からなくなるというのが面白いところです。仲間たちの過去や人物像が徐々に判明していくのとは対照的に、イザベラは不気味なほど隙がありません。完成された人間としての振舞いを見せ(欠点らしい欠点は「朝に弱い」ぐらい)、過去を匂わせる描写もほとんどなく、しかし「ただものではない」ことだけは分かる……「4.Alan」まで、イザベラはそういった立ち位置のキャラクターでした。

だからこそ、最終章である「5.Izabella」に突入する頃には、「ようやくイザベラのことが知れるやん!」と思わされていたのと同時に、作品としての盛り上がりのピークも同章にしっかり集約される結果となりました。これに関しては、紛れもなく構成の妙だと思います。

過酷な世界を生きる登場人物たち

路いろ氏が手がける『JOKERS』のキャラクターイラストはどれも愛らしく魅力的ですが、反面、作品の舞台となるロヴェーレは治安が悪く、悪党が跋扈する過酷な世界観となっています。そのあたりの事情は「1.Alicia」や「2.Louis」の時点でも描かれており、2人は子どもながらにして両親を失うことになりました。

こういった過酷の描写について、『JOKERS』は少ない言葉でさりげなく表現する傾向がありました。ルイスの母親が息子のために働きに出て、その仕事内容を匂わせるシーンなどが特に印象的だったのですが、こういったところでサウンドオンリーの利点が存分に活かされています。

また、我々にとっては過酷であっても、ロヴェーレに生きる人々にとってはそれが日常であり、大人たちの会話の話題にサラっとそういう要素が出てくることで表現されているのも巧いです。視覚情報が無い分、少ない情報で想像させられるのは、ボイスドラマや小説の良いところです。

イザベラと「利他の精神」

『JOKERS』の中で誰が好きかと言われると、様々なキャラクターが挙げられますが、私はなんだかんだ言ってもイザベラです。イザベラは物語全体の主役として相応しい魅力と深みを持つキャラクターであり、「5.Izabella」で明かされた過去とその描写は全編を通して最も印象的でした。

私がイザベラについて思うのは、彼女の生き方の方針は『北の国の魔女』を演じきった時点で確定していたのではないか?ということです。

舞台開演の直前にダンの訃報を耳にし、歌劇団の仲間からもすぐに彼の顔を観に行くように言われたにも関わらず、イザベラは女優としてステージに立つことを選びました。それはイザベラを歌劇団の世界に導いたダンに対する究極の愛だとも、「人のために役割を演じる」という呪いのきっかけだとも取れますが、いずれにしても「自分よりも他者を想う」というのは、Café & Bar JOKERでイザベラがやってきたこと、そしてこれからもやっていくであろうことに他ならないわけです(このことが、これまで決して表舞台に出てくることの無かった劇作家のセシルが、物語終盤にイザベラに力を貸すきっかけにもなりました)。

ダンを失った後、イザベラは一時的に自暴自棄に陥りますが、そんな中で彼女を再起させてくれたのはアランです。アランは、純粋な「利他の精神」でイザベラのことを助けました。それがイザベラの過去に対する解釈を変え、「利他の精神」で行動を続け、周りに仲間とお客さんが増えていった━━━というのが、作中のイザベラの経緯となっています。

『JOKERS』のメインキャラクター達はそれぞれ、人生の可能性を不当に狭められていた過去や、身内の不幸による深い絶望を経験しています。彼らを陥れたのは決まって「利己的な人間」でした。ですが、そこで「利己」に溺れることなくあくまでも「利他」で戦い続け、結果的に「トランプのジョーカーのように何にでもなれる場所」を守ることに成功しました。

「利他の精神」こそが、自らの人生というカードを切るために必要なものである━━━『JOKERS』では、そういったことが描かれているのではないでしょうか?

イザベラ以外で印象に残ったキャラ

イザベラ推しすぎてイザベラのことばかり書いてしまったので、他に印象に残ったキャラクターについて書いていきます。

ゲイル

どんな緊張感のある時でも余裕を忘れず、面倒見のいい兄貴分であり実力者、そしてそれを見事に演じ切るちゃけのこ氏。こんなんみんな好きになるに決まってますよ(圧)。スピンオフの『SP』では実質的な主役を務めるそうで、それも納得の名脇役でした。

エリック(カレン)

ゲイルと並ぶ癒し枠。「ジェンダーをその日の気分で使い分ける」というのは、あまり見たことが無いキャラ造形で新鮮でした。エリックとして出てくる場面が多い印象なので、生物学的には女性だけど、どちらかというと男性の方が主人格(?)なのかも。このあたりの事情は『SP』で描かれるのでしょうか。

ローズマリー

ウィルがかつて仕えていたお嬢様。「4.William」後半の「純真さに付け込まれて、すっかり籠絡されてしまったんだなぁ……」と心から思わせてくる、年頃の少女でありながらも仄暗さを垣間見せるような、恋摘もなか氏の繊細なお芝居がお見事でした。

ニコラス

アランがかつて勤めていた娼館のオーナー。『JOKERS』の中でも群を抜いて声が本人すぎたキャラクターです。CVのおーたむ氏は拙作『.REVIVE[ドットリバイブ]』にも出演していただいており、同作でも悪役を演じていますが、本人曰く悪役の原点は『JOKERS』なんだとか。キャスティングした当時はニコラス役を演じられていたことは知りませんでしたが、こうして過去出演作について知ると感慨深いものがあります。

最後に

『JOKERS』作者のこひらみかん様がパーソナリティの1人を務める『なるこひラジオ』にて、拙作『.REVIVE[ドットリバイブ]』の紹介をしてくださっていました。

他、作品作りについて興味深いお話が聴くことができます。よろしければ是非。